· 

良い魔法使いになりたいという話

結婚式のビデオカメラマンって具体的にどんな風に仕事をしているの?という話を書きました。

 

その1:結婚式の撮影にはエンドロールと記録ビデオがある

その2:エンドロールの一日のタイムスケジュール紹介

その3:記録ビデオ撮影を撮影して、お二人の手元に届くまで

 

お読みいただいた方はわかるかと思うんですが、そこそこにハードで、地味で、めっちゃ儲かるわけでもなく、自分の映像が世界中に知れ渡るような可能性もありません。ではなぜ私がこの仕事を続けているのか、どんなところに面白さを見出しているのか、そんな話です。

魔法使いにあこがれて

結婚式の映像の仕事を始めて、2年半が経ちました。始めた当初は、強い思い入れがあったわけではありません。物を作る仕事がしたい、なるべく少人数でワークフローが完結するものがいい、そう思って探した結果、たまたま出会った仕事でした。こんなに続いて、本腰入れられるほど好きになるとは思っていなかったです。

 

なんでだろうなー、と考えた結果、研修期間中に優れた撮影者・編集者の仕事を間近で見たことがきっかけだったと思いました。

 

研修中は、上手な人について回って、全く同じ条件下で撮影編集をします。私は最初「実際起こったことは一緒なんだから、誰が撮って誰が編集しても、そう大きく変わるまい」と侮っていたのです。全然違いました。特に、会社の中で一番上手な人の仕事を見たときの気持ちは、今でも深く記憶に残っています。私が作るものより圧倒的に良くて、それどころか現地で目で見ていたよりもずっと美しく感じられる光景が、映像の中に作り上げられていくわけです。私の目の前で、ほんの数歩ずれてカメラの角度を変えるだけで、たった数秒カットの選別を変えるだけで。

 

良い撮影、良い編集には、現実に魔法をかける力があると、その時はっきり知りました。私もこんな魔法を使えるようになりたい。そうしたら、見た人の気持ちを幸せにすることができる。世の中の幸せをちょっと増やすことができる。そんなことを思いました。

近くて遠い理想までの距離

以前ゲームを作る仕事をしていて、その時も、お客さんに楽しんでもらえるゲームを作りたい、遊んだ人に幸せになってもらえるようにしたいと思っていました。でも、具体的にどうしたらいいのか目指す方向が見えないまま、いつも目の前の作業に手いっぱいで、先への不安と人間的なしがらみに疲弊していました。結局私は誰かを幸せにできたという実感がないまま、ゲームの仕事を辞めました。

 

次にたまたま出会ったこの仕事で、世の中をちょっとでも幸せにできるかもしれないと気付いて、本当に嬉しかったのです。

 

良いゲームの作り方は結局よくわからないまま、スーパーゲームクリエイターたちははるか遠く雲の上の存在でしたが、良い映像の作り方ははっきりこの目で見ました。自分とたった数歩、たった数秒の差です。これなら届くんじゃないかと、なんかちょっと調子良く思っちゃったんですね。

 

そこからは必死に、仕事の隙間で人の編集データを見たり、現場の合間に質問しまくってアドバイスもらったり、本読んで映像の理論を勉強したり、考えうるいろいろをやりました。少しずつ分かることが増えて、出来ることが増えて、フリーランスになってからも自分ではっきりわかるくらい上達を続けています。でもまだ、あの時感じた数歩・数秒の差は埋まっていないです。

 

誰かを幸せにするためにもっと上手くなりたい。上達のためにやるべきことが具体的にある。なかなか届かないけど、でもきっと届くんじゃないかと思える理想がある。どんな仕事であれ、こういう条件が整ってると楽しいんじゃないかと思うんです。私にとってこれがそれ、という感じです。

 

結婚式の映像の役目は、出来事を記録することだけでなく、その日のイメージをより良い形で心に焼き付けることです。偉大な先輩に追いつきたい気持ちも強いですが、何より、ご新郎ご新婦の最高に幸せな記憶を上回るくらいの映像を残せるようでありたい。それは無限の挑戦だけど、だからこそ楽しい。そう思っています。