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映画『イミテーション・ゲーム』情報の多層化

今回は映画『イミテーション・ゲーム』です。第二次世界大戦下の英国でドイツ軍の暗号解読に取り組んだ天才数学者アラン・チューリングの物語。

取り上げるのは1時間26分ごろのこちらのカット。カフェのワンシーン。

線だけ拾うとごちゃごちゃして見えますが、実際の画面はもっと整理された印象です。フォーカスが当たっているのは(2)のあたり。ぼかして映し込まれた背景にさり気なく情報を重ね合わせた、非常に美しいカットだと感じました。

 

 

分解して見ていきましょう。画面右側の主人公たち(2)は軍事機密に関する重要な相談をしています。

画面の中央に位置する人物が主人公の上官で、この場面において決断を握る立場にあります。中央に重要なものを配置するというのは、基本でありながらとても強い意味を発揮する構図ですね。

また、手前左側には穏やかな表情で会話する老婦人(1)がぼんやり映りこんでいます。

主人公たちの緊迫した状況と対比させるかのような平穏な雰囲気のモブを映し込む演出。歴史的に重要な決断は何の変哲もないカフェの片隅で行われていた、という妙なリアリティを感じます。

 

 

画面奥、窓の向こうでは、負傷した兵士たち(3)が向かいの建物に運び込まれているのがうっすら見えます。

このシーンの主人公たちの決断で、多くの人の生き死にが左右されることの暗示です。この後のカットで、負傷兵たちの痛ましい姿がクローズアップされ、この印象はより強く提示されます。

 

 

前後のつながりと合わせて見ると、なおなおこのカットの完成度の高さを感じ取っていただけるかと思います。是非全編ご覧ください。アマゾンビデオのリンクを貼っておきます明るいお話ではないですが、一人の人生を描いた作品。映画全体を通して、複数の時間軸の重ね合わせ方が見事でした。